まがいのインタレストカバレッジとEBITDAをゴリ押しするソフトバンク
米国株についてのブログであるのに、僅か4本目で日本企業について書くことになったことをお許しください。ただカナリー自身がどうしても書きたかったので…
さて、株式、債券ともに、投資家から人気を集めるソフトバンク(以下SB)ですが、カナリーはこの企業が発表するインタレストカバレッジとSB債の健全性について非常に疑問を持っています。そしてこの企業の債券を購入する方の気持ちがいまいち分かりません。
まず理由を先に言いますと、SBの実際のインタレストカバレッジレシオ(言葉が長いので以下から利息倍率とします)は彼ら自身が計算し発表しているものよりずっと低いと考えるからです。昨季(2017年3月に終了したもの)で言えば、5.5倍とアニュアルレポートに記述がありますが、実際は2.20倍であると思われます。
ではなぜSBとカナリーが考える利息倍率が違うのかというと、SBは利息倍率の計算に調整後EBITDAを用いているからです(計算式は投資家向け説明会の資料に記述あり)。EBITDAは、簡単に言えば、現金の出入りがないという考えから、営業利益に減価償却費を足し合わせた数字です。しかし、常に設備投資が必要な携帯事業を営んでいるSBが、いわば分割された設備投資費用の減価償却費を費用計上しないEBITDAを用いて、利息倍率を計算することはちゃんちゃらおかしな話です。その為、SBの債券投資家は営業利益や税引前利益を使って利息倍率を計算すべきです。もし営業キャッシュフローで利息倍率を算出したい場合は減価償却費や、設備投資に当たる固定資産取得の支出額等を差し引くべきでしょう。以下は営業利益と税引前利益を用いて計算した過去4年の利息倍率の結果です。
ソフトバンクの利息倍率(EBITDAベースとの比較)
|
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
アニュアルレポートEBITDAベース |
5.6 |
5.5 |
5.5 |
未発表 |
営業利益ベース |
2.51 |
2.27 |
2.2 |
2.53 |
税引前利益ベース |
3.31 |
2.28 |
1.52 |
0.75 |
純利益ベース |
2.08 |
1.27 |
3.16 |
2.40 |
注目して頂きたいのはEBITDAベースと営業利益ベースで大きく違うということです。そしてこの結果からいえることですが、仮にSBが携帯事業を営む公益企業と考えても、この利息倍率は低いと思います。また最近のSBが投資企業にもなっていることを考えれば、この利息倍率は投資不適格と捉えるべきだと考えます。ちなみに有名なアメリカの投資家ベンジャミン・グレアムは以下の利息倍率を持つ企業への債券投資を推奨しています。
グレアムが推奨する利息倍率
|
税引前利益ベース |
純利益ベース |
||
|
平均 |
7年間での最低倍率 |
平均 |
7年間での最低倍率 |
公益債 |
4倍以上 |
3倍以上 |
2.65倍以上 |
2.10倍以上 |
一般企業債 |
7倍以上 |
5倍以上 |
4.30倍以上 |
3.20倍以上 |
(The intelligent investor, Benjamin Graham著より)
SBを公益企業と捉えるか、一般企業と捉えるかは、議論の余地があると思いますが、どちらにしても、SBの現時点での利息倍率は安全とは言えないと思います。そしてS&P等の格付けから考えても現時点ではSB債をジャンク債と考えるべきです。またソフトバンク本体とスプリントが現在のように、今後もドル建て社債を発行する場合、米ドルが金利上昇の局面ですので、支払利息が増えて収益を圧迫する可能性も考えられます。
はっきり言いまして、このジャンク債(劣後債を含む)をたった2%前後の利回りで購入する投資家の方々の考えがよく分かりません。恐らく、投資家の方々は、預金よりかなり魅力的な金利だからと言い張ると思いますが、よっぽど、日経平均やS&P500のETFに投資したほうがよいと思うのですが…。そもそもバフェットかグレアム(?) は債券の破綻リスクを高い金利リターンで賄うとの考えは馬鹿げていると主張していたと思います。確かに債券王のミルケン等、ジャンク債で収益を上げた投資家もいますが、個人投資家がこのようなことを成し遂げるのは難しいです。
また投資銀行や証券会社はSB債にお墨付きを与えると思いますが、彼らが社債発行引受の手数料で利益を上げていることを忘れないように。
私としては同じようにEBITDAを用いながら破たんしたアメリカのエンロンやワールドコムの二の舞にならないことを祈っています。
と、ここまで書いて思い出しましたが、SBに限らず、ほとんどの日本企業は決算短信での利息倍率の計算に営業CF(減価償却費を足して、設備投資を引いていない)を使っているんですよね。ただ特別な企業でもない限り、設備投資は継続的に必要ですので(特に公益企業)、設備投資の費用を考えずに利息倍率を計算するのはおかしいと思いますし、投資家は利息倍率を自分で計算する必要があると思います。