スプリント合併が難しいと思う理由
昨日、FCC(連邦通信委員会)の委員長が、スプリントとT-MobileUSの合併を承認する意向であるとのニュースが流れました。合併の成立は難しいと考えていたカナリーにとっては驚きでした。しかし、依然として司法省の審査が残っており、司法省の審査を乗り越えるのは難しいとカナリーは考えています。もちろん合併が成立する確率は0ではありませんが、合併が成立したらミラクルだな(笑)と思っています。今回はその理由について書いていきたいと思います。
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合併成立へのハードル
合併のハードルは独占禁止法。基本的にこの一点です。合併が難しい理由として中国との安全保障の問題、ソフトバンクとの関係、日本企業の邪魔をしているなど、うんたらかんたら言っている人もいますが、もしこの辺りの点が問題であれば、CFIUSという外資参入を規制する政府機関が買収を承認しません。既にCFIUSは買収を承認しているので、残るは司法省の独占禁止法の審査が重要なハードルとなります。
FCCが合併を承認する見込みなので合併成立の可能性は高まりましたが、合併は決まったようなものと考えるのは時期尚早だと思います。というのも、司法省はFCCとは別の機関であり、FCCは「通信の公共の利益(技術革新も含めた)」を考えるのに対して、司法省は「独占禁止法や市場競争」について考えており、似てはいますが、焦点が少しだけ異なっています。ですから、FCCが「合併は公共の利益になる」と考えても、司法省が「合併は独禁法違反だ」と考え、反対すると合併はそこで破談となります。では独禁法審査がどうして厳しいのか見ていきましょう。
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独禁法審査の通過が難しい理由
これは皆さんもご存知の通り、アメリカの携帯事業が寡占市場だからです。と、言っても具体的になぜ、そしてどれくらい難しいのかピンと来ないと思うので、HHIという具体的な指標で説明したいと思います。
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HHIとは
HHIとは特定の市場の寡占度合いを測る指標で、司法省が独占禁止法の審査をする際に用いる重要な指標です。以前は、この指標で買収を承認するか否かを決めていました。現在はHHI以外の面も考慮して審査をするようですが、依然としてHHIは独禁法審査の上で重要な指標です。指標は0-10000で表され、10000に近づくほど市場寡占度が高いビジネスであることが示されます。
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司法省の判断基準
司法省は買収成立前後のマーケットのHHI数値と、HHIの増加分に着目し、一定の判断基準を設けて審査をしています。以下の表は司法省が合併によって競争が制限されると考えている基準です。
合併後のHHI | HHIの増加分 |
1500まで | 特に問題なし |
1500-2500 | 250以上の増加 |
2500以上 | 150以上の増加 |
合併後のHHIが1500以下の市場やビジネスの大型買収にケチがつくことはあまりありません。しかし、HHI1500以上の市場に属する企業が合併、買収を行おうとすると、司法省、または公正取引委員会から厳しい目が向けられ、HHIが2500以上の市場だと大型買収、合併の承認を得ることがより難しくなります。
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携帯市場のHHI
では携帯市場のHHIを算出したいと思います。HHIは各企業のシェア(%)の二乗を合計して算出されます。例えば靴市場に参入するA社、B社のマーケットシェアがそれぞれ50%の場合、50の二乗 + 50の二乗でHHIは5000となります。
ではアメリカの携帯市場はどうなのか。以下のグラフが2018年のマーケットシェアになります。
これを基に現在のHHIを算出すると約2776になります。そして、買収後に予測されるHHIは3259となり、増加分は483となります。この数値を司法省の判断基準に照らし合わせてみると、「競争が制限されるであろう基準」を大きく超えており、司法省が合併に難色を示す理由がよく分かると思います。
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司法省がOKする確率は35%か!?
カナリーが持っている1996年から2011年のデータ(ちょっと古いです…)によれば、今回のケースと同じように、買収後の市場のHHIが3000-3999になり、HHIの増加分が300-499となる買収案件は合計で14件あり、そのうち買収が成立しているのは5件です。残りの9件は買収不成立となっています。このデータから、今回の買収が成立する確率は35%ほどと考えてよいかなと思います。最近の傾向をみると、もう少し高い気もしますし、アナリストの中には50-60%という人もいるようですが…。
データ引用: Merger Arbitrage Second Edition; How to Profit from Global Event-Driven Arbitrage
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大型買収には追い風が吹いている
ここまでのところ、買収成立を願っているソフトバンクやスプリント投資家の方たちにとってはネガティブな話になったかもしれません。しかし、買収成立の可能性が0というわけではありません。というのも、ここ最近、司法省や公正取引委員会は大型買収を承認しており、大型買収には追い風が吹いています。これは現在の政権が保守党である側面が大きいと思います。保守党は独占禁止法の面で、大型買収などに寛容なポリシーを持っているので、大型買収が成立しやすいと言われています。
またスプリントの経営が思わしくないという点も考慮されると思います。スプリントが無くなれば携帯通信市場の競争に支障をきたすと判断され、尚且つT-MobileUSとの合併がなければ、スプリントの経営再建は難しいと判断されれば、買収が承認されるかもしれません。
と、今回は独占禁止法に焦点を当ててスプリントとT-Mobileの合併について書いてみました。気が向いたら両社の株価についても今後書いていきたいと思います。
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