優先株はビミョー。米国株配当再投資戦略の投資家への忠告と、普通株との比較
高配当ということもあって人気が高い優先株。そしてその優先株で構成された米国ETFの代表がPFFであり、こちらも人気の金融商品となっています。しかし、カナリーは正直、優先株はビミョーだと思っています(普通株のほうがいい)。今回はカナリーが優先株を微妙だと思う理由ついて書いていきたいと思います。が、今回は長いので目次を用意しました。まとめサイトみたいになるのでカナリーは少し嫌なのですが…。ただ時間がない方もいると思うので、そのような方は目次から気になる点をチェックして下さい。
優先株が微妙な5つの根本的理由
カナリーは、主に5つの理由から優先株は普通株と比較すると微妙であると感じています。
1. 優先株は償還されるから価格上昇が見込めない。
カナリーは優先株(PFF)の価格が上昇しない根本的理由を説明した記事を見たことがありません。よくチャートが横ばいだから、価格上昇は見込めないと主張する方をお見掛けしますが、根本的な理由ではありません。優先株の価格上昇が見込めない根本的理由は優先株の性質で、多くの優先株は債券のように将来償還される、または償還される可能性があるからです。その為、例えば将来50ドルで償還予定の優先株の株価が50ドルを大きく超えるのは、普通株への転換権がなかったり、普通株のような永久不滅証券(優先株の中では結構珍しい)でない限り、現実的ではありません。例えばPFFに組み込まれているウェルズファーゴ発行のシリーズJは、2017年12月以降WFCが25ドルでいつでも償還することが可能です。その為、シリーズJの株価は25ドル近辺を推移しています。
2. 増配の恩恵を受けられない。
これは優先株の条項によりますが、優先配当が債券のように固定の場合には増配されることはありません。つまり、企業の利益拡大の恩恵を受けられないことになります。もちろん優先配当が、普通配当に対して1.5倍などと普通株配当に比例する場合は、普通配当と共に配当が上がっていきますが、配当が固定の場合、普通株と比べ、増配の恩恵を受けられないばかりか、増配による株価上昇の利益を逃すことになります。また優先配当が普通配当に比例する場合でもデメリットがあると考えています。それは4番で書きます。
3. 議決権がないのは地味に痛い。
個人投資家の場合、普通株の議決権があったところで何も出来ないので軽視する方も多いですが、カナリーは優先株に議決権がないことは個人投資家にとっても結構デメリットだと感じています。そのデメリットは次の4番に関係します。
4. 自社株買いの恩恵を受けられない可能性が高い。
自社株買いの恩恵を受けられるかどうかは普通株主であろうと優先株主であろうと、経営陣の意思決定に懸かっているわけですが、その経営陣を選ぶ権利、その経営陣にモノを言う権利は、優先配当が滞らない限り普通株主にしかありません。そして、普通株主であるアクティビストや大株主の圧力があれば、全ての自社株買い予算を普通株に割り振ることも可能なのです。例えば、日本企業ですが、伊藤園。今年、伊藤園は確かに優先株の自社株買いを実施しましたが、もし仮にアメリカ的な強いアクティビストや大株主が伊藤園の普通株主としていた場合、彼らが圧力をかけ、反対を表明すれば、優先株に振り向けた自社株買い費用を普通株主で独占することも可能なはずです。そしてそれに対して優先株主は反対するどころか、文句を言う場もない訳です。
また2番で述べた配当に関連したデメリットですが、優先配当が普通株配当に比例する場合でも、経営陣が自社株買いを中心に普通株主に報いた場合、優先株主は大きな利益を逃すことになります。極端ですが、例えばA社の普通株の年間配当が3年間継続的に1ドル(例えば利回り2%)だったとします。もし優先配当が普通配当の2倍と規定されていた場合、優先株主は毎年2ドル(例えば利回り6%)貰えます。しかしこの企業が普通株の自社株買いを優先して1年目で1株当り5ドルの自社株買いを、2年目で6ドル、3年目で7ドル…となった場合、優先株主の利益は、普通株主の株主還元利益(自社株買いなので現金をもらえる訳ではありませんが)に大きく水をあけられてしまいます。一方で経営陣は優先配当の費用を抑えながら、自分達を選ぶ普通株主に最大限尽くすことが出来ます。しかしこの経営陣に対して優先株主は何も言えません。
5. 優先株の半端あるポジション
流行りの”半端ない”ではなく、”半端ある”です。ETF購入者にはあまり関係ありませんが、残余財産の分配に関して優先株は普通株主に対して優先されるものの、債権者に劣後するという超中途半端なポジションです。そして、企業が破たんした際、債権者に劣後するため、結局何も受け取れない可能性が高いです。
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優先株 VS 普通株
さて、ここからは実際の事例から金融機関発行の個別優先株を普通株と比較して優先株が微妙であることを説明していきます。比較する内容は優先株配当と普通株還元率(配当+自社株買い)、そして両株のパフォーマンスです。因みに以下で挙げさせて頂いた事例はカナリーの主張(優先株が微妙である)を裏付けています。カナリーの主張にとって少々都合の良いものを持ってきています(笑)
USバンコープ優先株 vs 普通株
まずUSバンコープのシリーズBです。2006年に発行され、利回りは3.50%またはロンドン銀行間取引金利どちらか高い方で決まります。この優先株は2010年7月1日からのデータしかなかったので、この日から最近までの配当利益率と普通株の株主還元率を以下で示してみました。
今日までの優先配当合計 |
2010/7/1の株価 |
2010年から今日までの配当利益率 |
6.887 |
20.1 |
134.26% |
2010年7月からの配当合計 |
10年~18年の一株当たりの自社株買い費用の合計 |
2010/7/1の株価 |
2010年から今日までの株主還元率 |
6.86 |
7.98 |
22.33 |
166.46% |
普通株の自社株買いにより、普通株の株主還元率が優先株の配当利益率を上回っています。また、もし普通株を2010年に22ドル前後で手に入れた場合、増配によって、現在の配当利回りが約5%になり、優先株の現在の利回り約3.5%を上回っています。そして以下が10000ドルからの普通株と優先株それぞれの配当再投資後のパフォーマンスです(2010年から)。普通株のパフォーマンスが優先株を上回っています。
USB普通株とシリーズB優先株の配当再投資後のパフォーマンス(10000ドルから)
USバンコープ普通株 | USバンコープ優先株シリーズB | |
トータルリターン | 165.10% | 59.64% |
年平均リターン | 12.96% | 6.02% |
10000ドルを配当再投資した場合の現在の額 | 26,500 | 15,960 |
※データはpreferred stock channelより
Allstate優先株 vs 普通株
続いては保険会社、Allstate発行(2013年)のクーポン5.63%の優先株シリーズAです。この企業の普通株還元率もシリーズAの優先株配当利益率を上回っています。
今日までの優先配当合計 |
2013/6/7の株価 |
2013年から今日までの配当利益率 |
6.815 |
24.9 |
127.37% |
2013年6月からの配当合計 |
13年~18年の一株当たりの自社株買い費用の合計 |
2013/6/7の株価 |
2016年から今日までの株主還元率 |
6.44 |
23.26 |
47.46 |
162.58% |
そして以下が10000ドルからのAllstate普通株と優先株それぞれの配当再投資後のパフォーマンスです(2013年から)。パフォーマンスでも差がついております。
Allstate普通株とシリーズA優先株の配当再投資後のパフォーマンス(10000ドルから)
All State 普通株 | All State優先株シリーズA | |
トータルリターン | 111.17% | 35.76% |
年平均リターン | 15.92% | 6.23% |
10000ドルを配当再投資した場合の現在の額 | 21,118 | 13,577 |
※データはpreferred stock channelより
上記のケースは優先株が普通株を株価パフォーマンスや還元率の面で下回る例の一部です。この他にもJPモルガンのシリーズAAやPNCファイナンスのシリーズPの優先株も該当する企業の普通株と比較してパフォーマンスや還元率で下回っていました。しかし一方でカナリーの予測に反し、優先株の配当が、普通株の株主還元率を少々上回っている、またはどっこいどっこいというものも調べた中にありました。ただ、金融株の好調さもあり、普通株の配当再投資後のパフォーマンスは優先株のパフォーマンスを上回るケースが多いです。
良い優先株もあるにはあるが入手困難
ここまで優先株のネガティブキャンペーンを行ってきたカナリーですが、優先株がダメとは言い切れないと思っています。その理由としては、個別で考えれば有利な優先株はあるからです。例えば有利な普通株への転換権が付いているものや(バフェットが所有していたBofAの転換優先株などがいい例)、不況で割安に放置されたもの等。個別で探せばあるかもしれません。ただ日本の個人投資家がそれらを得るチャンスは、日本の証券会社が販売を始めない限り無いと思います。ただIB証券では多くの優先株を取り扱っているようですし、サクソバンク証券も少し取り扱いがあるようです。
最後に
さて色々考慮すると、優先株は全体的にビミョーと考えざるを得ず、優先株の集合体、つまり優先株の全体ともいえるETF(PFF)もビミョーと言わざるを得ない、というのがカナリーの考えです。もちろん配当を出来ることなら多く得たいという気持ちは理解できます。また中には配当が生活に必要な人や、配当で生活していきたいと願う人もおり、人それぞれ事情が違うため、優先株やPFFを必ずしも否定する訳ではありません。しかし、配当再投資戦略を採用する方の多くはアメリカ企業の長期的な利益拡大の恩恵を得ることを重視しているはずなのに、長期的な恩恵が普通株に劣る傾向がある優先株(対S&P500のパフォーマンスが物語っている)に投資することは少し矛盾しているのではと思います。また不況時の下落リスクは普通株と似たようなものであり、更に、破たん時のリスクが普通株と同等のもの(結局債権者に劣後するため)となる可能性が高いのに、リターンが劣る優先株やPFFに投資するのは、リスクリターンの観点から理にかなっているのか疑問が残ります。もちろん議論は尽きないと思いますし、反論もあると思いますが、優先株やPFFに投資する際に参考にして頂ければ嬉しいです。読みにくく長い記事でしたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
※投資は自己責任でお願いします。