噂に賭けるということ
先日、保険ブローカー大手のAONが、こちらも同業大手のウィリス・タワーズ・ワトソンを買収予定であるとの憶測が大手メディアを中心に流れました。AONといえば、数年前までイングランド名門のサッカークラブ、マンチェスターユナイテッドの胸スポンサーだったこともありますね(サッカー詳しくない人、すみません…)。ウィリス・タワーズ・ワトソンについては、名前は聞いたことがありますが、よく知りません。
さて憶測が流れた後、被買収側のウィリス・タワーズ・ワトソンの株価は、
5日に上昇し、
一方の買収側のAONは
ズルズル下落しました。7%以上の下落でしょうか。AONが下落した理由は、合併が株式交換で行われると推測されていたからでしょう。
この噂に乗った投機家は、買収合意を期待してウィリス・タワーズ・ワトソンを買ったか、AONをショートしたか、または両方を組み合わせたかで爆益を狙ったわけです。さて結果はどうなったかというと…。
ウィリス・タワーズ・ワトソン
下落…
AON
上昇した…。空売りした人は損したということです。
AONは噂が流れた後、買収計画が初期段階であることを一旦は公表したものの、結局両社は買収計画を進めないことを再度発表しました。その結果、双方の株価は噂が流れる前の水準に戻る動きになったため、結果的に投機家は損を出してしまいました。
噂に賭けた場合、噂が当たれば投機家に爆益をもたらす可能性があるわけですが、一方で噂が真実ではなければ、当たり前ですが損をするわけです。また今回のように買収交渉の噂は真実だけれども結局、買収合意に至らないというケースも数多くあります。噂の段階や買収合意が正式発表される前において、買収成立を予測してお金を賭けるということには非常に大きなリスクがあることをくれぐれも忘れないようにして下さい。まあ当たり前な話ですよね…。
このように警告しておきながら、カナリーは時々買収の噂や憶測を記事にしたり、このページに載せたりしています。傍観しているだけなら面白いので。興味がある方はご覧ください。
最後に少し豆知識的な話をしますが、ウィリス・タワーズ・ワトソンが本社を置くアイルランドやイギリスでは、個人投資家を保護するため、買収に関して事細かに規制があり(イギリスではシティ・コードと呼ばれている)、今回のように買収の噂が流れた企業は必ず噂に対する回答を公表することが定められています。ですから、両社は今回の噂に対して即座に反応したわけです。アメリカではこのような定めが無かったり、買収に関する規制も緩いのでインサイダーを楽しむ大口投資家も存在しますが、アイルランドやイギリスにおいては個人投資家が比較的フェアに扱われています。特にイギリスは個人投資家思いのところが結構あるので、日本も是非参考にしてほしいなとカナリーは思っています。
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1ドル60円になったらどうなるか。
先日読んだこの記事。
カナリーにとって非常に興味深かったです。この記事内では、ゴールドマンサックスのストラテジストのジメルカさんが、将来仮に不況となりアメリカの中央銀行が金利を引き下げた場合、円が強くなって最終的に1ドル60円に到達すると予測しています。
金融に絶対的な相関というものはないとカナリーは思っていますが、それでも、円高と同時に株安、株安と同時に円高という現象は起こりやすいと言えるでしょう。ということで今回はもし現在の状況から、リーマンショック時のような株価下落と同時に1ドル60円に到達した場合に円換算でどれだけ資産を失うのかを計算してみました。まあこんなの誰でもすぐ計算できそうですが…。ただネガティブなことを率先して計算する人はあまりいないと思うので、カナリーが皆様の代わりに計算してあげました(笑)。
今回はダウ平均でシミュレーションしていきます。前々日の終値は25835.72ドル。終値が付いたタイミングで1ドルは111.84円だったので、111.84円をダウ平均25835.72ドルに乗ずると、円建てのダウ平均は2,889,466.92円となります。
次に株価の下落を考えていきます。リーマンショック時、2007年10月12日を頂点とし2009年3月6日を底とした場合、52.98%下落しています。ですので、今回はこれと同じぐらいの53%の下落が起こると考えます。
さて、ここまでのシミュレーション条件を整理すると、
前々日の25,835.72ドルから53%下落すると同時に1ドル=60円になる。
という条件です。
そしてこの条件の結果はこうなります。
ダウ平均: 12,142.79ドル
円建てのダウ平均: 728,567円
円換算での下落率: 74.8%
下落率を算出した瞬間、どこか間違えたかと思いましたが、合っていると思います(笑)。計算方法も含め、お前計算間違っているよ、と思った方はお知らせください。
恐らく53%のダウ平均の下落と1ドル=60円の円高が同時に起こるリスクというのは、現時点ではテールリスクに分類されるほど低いとは思いますが、それでも0ではないはずです。ですがまあ、アメリカ企業が着実に成長していく可能性を考えれば、耐え忍ぶというのも懸命な選択の一つでしょう。しかしそれでも、私たちが日本において円を使って生活しているなかで、円換算で74.8%も資産が減少すれば、精神的に落ち込み、投げ売りしたくなるかもしれません。
-
ちょっとリアリティがあるシナリオ
このブルームバーグの記事が飛ばし記事なのか、ジメルカさんがどの程度本気で考えているのかは分かりかねます。ただ、1ドル60円まで行くかは置いておいても、この記事で触れられている、日本の銀行たちが保有するドル建てのレバレッジというのは恐ろしいものだなと思いました。そして、このレバレッジが円高の要因になるというストーリーはちょっとリアリティがあるなとも感じています。
というのも、もし円高が起きても、我々のように純資産で米国株を運用している投資家にとっては、ドル資産を保有して耐え忍ぶというのも一つの選択肢です。しかし、レバレッジで運用している銀行にとって耐え忍ぶということは極めて難しいです。放っておけば損失は大きくなり、資本の比率が低下してバランスシートが傷ついてしまうからです。ジメルカさんは恐らく、日本の銀行が持つドルのレバレッジが、円高によるリスク回避の動きで円に転換されれば、さらに円高が加速し最終的に1ドル60円になる、と言いたいのだと思います。カナリーの理解が正しければね。そしてもし、この円高が進む過程で、それなりの大きなレバレッジをもつ銀行がドル資産から逃げ遅れたらと考えると…、怖いですね。日本経済にとっては厳しいことになるかもしれません。もし本当にこのようなことが起きれば、これこそがマイナス金利の副作用かもしれませんね。まあ日本の銀行が上手くやってくれることを信じています…。
と、いっても、1ドル60円というジメルカさんの予測はアメリカが利下げをするほどの不況になるというのが前提条件なので、確率で考えれば低いのかなとは思います。ただ頭に入れておくことは大事かなと…。
ということで、ここまで書いてきました。週刊誌のように読者の不安を煽りたくはなかったのですが、カナリーの興味本位で書いてみました。
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JTだけではない、タバコ企業への訴訟
昨日だか一昨年にJTは1480億円ほどの損害賠償をカナダで命じられました。まあ時代の流れってやつでしょうか。タバコ企業にとって訴訟はビジネスを続けていく上で避けては通れないハードルとなっており、フィリップモリスインターナショナル(PMI)やブリティッシュアメリカンタバコ(BAT)も沢山の訴訟案件を抱えています。
PMIが抱える訴訟件数
訴訟分類 |
件数 |
健康被害を訴える個人訴訟 |
55 |
10 |
|
喫煙に関わるヘルスケア費用の補償請求 |
16 |
商品表示に関する集団訴訟 |
1 |
商品表示に関する個人訴訟 |
7 |
喫煙全般に関する訴訟(反対運動のようなもの) |
2 |
(PMI 10-K p.96より引用)
上の表は2019年2月時点でPMI(フィリップモリスインターナショナル)が抱えている訴訟案件の数です。JTが抱える訴訟件数は約20件と言われていますが、PMIの訴訟件数はJTの件数を大幅に上回っています。まあマーケットシェアが大きいから訴訟件数が多いのかもしれませんが…。訴訟が起こっている国は主にカナダ、アルゼンチン、ブラジルなどです。あ、先に言うべきことだったかもしれませんが、今回賠償命令を受けたJT子会社のJTIマクドナルドの訴訟案件ではPMI子会社のロスマンズ-ベンソン・エンド・ヘッジとインペリアルタバコも被告となっており、賠償命令が出ています。PMI投資家も他人ごとではないので、心に留めておいてください。
BATの訴訟
訴訟分類 | 件数 |
集団訴訟 | 15 |
個人訴訟 | 116 |
上の表はBATのアメリカでの訴訟を除いた訴訟件数となっています。PMIと同様にブラジルとカナダにおける訴訟が多く、更にイタリアでも24件の個人訴訟を起こされています。
BATのアメリカでの個人訴訟
正直、量の多さと複雑さでカナリーの理解が追い付いていません。すみません…。BATはタバコの健康被害に関する個人訴訟の数は99としていますが、他の事案でも訴訟を起こされており、その合計数は5061件になるようです(BAT annual report 2017 p.177内の表から算出)。さすが、訴訟大国ですね…。ただ個人訴訟なので、この件数は増減することが多いらしいです。詳しく知りたい方は、BATのアニュアルレポートに色々書いてあるので読んでください。
訴訟件数だけで考えれば、PMIはアメリカでの訴訟がないので安心感はあります。ただ訴訟件数が例え1件でも、賠償金額が大きければタバコ企業に大きなダメージを与えますから、件数だけでは判断しきれないでしょう。
タバコ企業はこれまで多方面から訴えられながらも生き延びてきたので、将来を楽観的に考えている投資家が多いです。カナリーもその一人ではありますが、法律や裁判所の判断も時代の変化とともに変わっていくことがあるので、タバコ株投資家は訴訟リスクを、きちんと”リスク”として捉えておく必要がありそうです。
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GNW 利益率40%のスペシャルシチュエーション
GenworthはS&P400に構成されている保険会社です。この企業は現在、中国のOceanwideという企業に買収されることで合意しています。しかし、この買収合意は2016年10月になされたものです。つまり、2年経っても買収が成立していない状態で、その結果、GNWの株価は買収価格である5.43ドルから30%ほどのディスカウントで売られており、買収成立時には40%の利益を得られる可能性があります。
チャートはこんな感じ。
買収成立に対してポジティブなニュースが流れると5.43ドルに近づき、ネガティブなニュースが流れると離れていくというのを繰り返しています。
今年も既に3月に入っていますが、もし仮に今年中に買収が成立すれば年率は40%以上になるでしょう。この水準は、このようなスペシャルシチュエーションの部類では非常に大きい利益率となります。しかしこのような大きい利益は、それなりのリスクから生み出されることを忘れてはいけません。ここのリスクとは買収不成立のリスクです。今回は40%の利益を生むリスクを見ていきたいと思います。
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規制当局が買収を承認しない。
買収合意からこれほど時間が経っているので、いくつかの規制当局からは許可が下りているのですが、アメリカの金融規制機関であるFINRAとカナダの規制当局からの承認を得られていません。この2つの機関から承認を得ることが買収成立のための絶対条件です。さらに、Oceanwide側も中国当局から許可を得なければなりません。というのも、ここ最近中国政府は外国への資本流出を規制しており、この点についての許可が必要です。この3つの当局から承認を得られるかが不透明なので、買収価格と株価の間にスプレッドが生じています。一方で、この3つのハードルを両社がクリアできた瞬間に株価は買収価格の5.43ドルまで上昇するでしょう。
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ズルズル長引く買収。時間が分からない
このような投資(投機)では時間がものを言います。短ければ短いほどベターで、その分だけ年率換算のリターンが増えていきます。しかし、今回の買収では最終的にいつ当局の承認を得られるかを予測することが極めて難しい状況で、さらに長期化することも考えられます。買収完了までの時間が長引けば長引くほど、年率リターンが減少しますから、この点もリスクの一つです。
さらに、買収の長期化は買収成立の確率を下げます。というのも、企業は買収のために、投資銀行や弁護士に高額なアドバイザリー費用を支払っており、買収完了までの時間が予想以上に長期化すればこのような費用がかさんでくるからです。例え当局からの承認を得られる公算が高くても、高額な買収費用に耐え切れずに買収話が破談になるケースはよくあります。
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チャイナディスカウント
まあこの買収案件ではあまり関係ないかもしれませんが、中国企業がアメリカなどの企業を買収する際には、他の買収案件と比較して買収価格と株価のスプレッドが大きく開くことがあります。これはなぜかというと、数年前に中国企業たちが米国企業を積極的に買収した際に、中国企業の企業統治などに問題点が多く、多くの買収案件に対して許可が下りなかったということがありました。そのような経緯から、中国企業が買収に関わる際は買収成立への道のりの中で特有のリスクがあると認識されており、そのリスクによってスプレッドが他の買収案件に比べて開く傾向があります。まあ要は、中国企業はあまり信頼されていないわけです(笑)。
カナリーとしては、買収費用がかさみ、両社が待ちきれずに買収が破談することはあり得るなと思い、この株については買っていません。ただ、長期化しても買収が成立するときは成立するので、買ってみても面白いとは思います。もしGNWをポートフォリオに入れた状態で今年中に買収が成立すれば、あとは寝ていてもS&P500をアウトパフォーム出来ると思います(今年に限って言えば)。また、これだけスプレッドが開いていれば、コールオプションのロングでも買収成立時に利益を出すことが出来ると思います(期間は長いほうが良いかと)。GNWを原資産とするオプションを取引できる方は買収不成立時のダウンサイドリスクを抑えられるので、これはこれで面白いかなと思います。
※投資は自己責任でお願い致します。
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セルジーンが-8%暴落
昨日、セルジーンが-8%と暴落しました。ブリストルマイヤーズ株を保有するスターボードがセルジーンの買収案件に対して反対を表明し、大株主であるウェリントンがスターボードの反対表明に呼応したため、買収成立が不安視されて下落しました。一方のブリストルマイヤーズは上昇しています。これはアクティビストたちがブリストルマイヤーズの身売りを要求しているためとも言われていますが、どちらかといえば、買収が不成立になれば株式発行をせずに済むことと、空売りのポジションが、不成立を見込んで解消されたことが要因だとカナリーは思います。
ここからはカナリーの浅はかな考えであり、将来絶対こうなるというものではありません。ただ、私が思うにスターボードといったアクティビストが今回の買収をブロックするのは難しいと思います。というのも、このブルームバーグの記事よればスターボードの株式保有率は1%に満たない状態で、大株主であるウェリントンの株式保有率もわずか7.7%であり、この2つのヘッジファンドのみで買収をブロックするには保有株数が少ないと思います。ですから他の株主たちにも反対してもらう必要があるわけです。しかし、ブリストルマイヤーズの大株主はブラックロックやバンガードといった金融機関になります。金融機関中心の株主構成は大企業の典型的パターンですが、金融機関は今回のような買収提案を支持する傾向が強いと言われています。これは、経営陣と仲良くしておきたいというのと、M&A業務が金融機関、特に投資銀行の収益源であることが理由です。またもう一つは、金融機関は短期的な利益を求める傾向が強く、買収プレミアムで儲けが出てしまうなら、買収が企業にとって長期的にマイナスであっても賛成に回ることが多いと言われているからです。今回は買収側であるブリストルマイヤーズにおいて委任状争奪戦が起きているわけですが、金融機関はセルジーン株も保有しており、買収が成立すれば、セルジーンの株で利益が出せるわけです。このようなことを踏まえると、金融機関はブリストルマイヤーズとセルジーン双方の株主総会で買収に賛成し、買収成立を後押しするのではないかとカナリーは考えています。
とはいっても何が起こるのか分からないのが企業買収の世界です。例えば、もし投資助言機関であるISS等がブリストルマイヤーズ株主に対して反対するように助言すれば、金融機関も反対に回るかもしれませんし、これから反対に回るヘッジファンドが増えることも考えられます。ですので、ここまでカナリーが書いた意見や見方も今後の展開によってコロコロ変わってくると思うので、現時点での意見として参考程度に留めておいてください。
因みに、スターボードといったアクティビストが他の製薬会社にブリストルマイヤーズ株へのTOBをお願いし、実行してもらうという方法が、買収不成立を実現するために最も有効な手段ではないかと勝手に考えています。というのもブリストルマイヤーズの株はセルジーン買収発表後に株価が下落しました。この際に「ブリストルマイヤーズ株は安くなっているので他の製薬会社がTOBを仕掛けるかもしれない」とどこかのアナリストが言っていました(誰だか忘れてしまったので出典元を示せません。ごめんなさい…。)。もし、アクティビストであるスターボードたちがブリストルマイヤーズを欲しがっている製薬会社を見つけ出せた場合、株主総会の前にTOBを仕掛けるようお願いし、反対票を増やすというのが最も有効な手段であるように思います。ただ株主総会まで時間がないので、このように事が上手く運ぶ可能性は極めて低いと思いますが…。まあカナリーの勝手な妄想です。ただ裏を返せば、このような大胆な動きがない限り、アクティビストが買収を阻止するのは難しいと現時点では考えています。
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ハードルはまだある
今回のセルジーンの買収案件では、株主総会で賛成を得られるかがキーポイントとなっていますが、このほかにもまだ独禁法のハードルが残っています。
セルジーンは多発性骨髄腫という病気の薬で高いマーケットシェアを誇っています。一方でブリストルマイヤーズもエンプリシティという多発性骨髄腫に対する薬を販売しています。エンプリシティのマーケットシェアは小さいのですが、セルジーンのマーケットシェアが大きいので、合併すると結果的に寡占の度合いが高くなってしまいます。この点を司法省が問題視する可能性は非常に高いと思います。だからといって、司法省が買収自体を阻止するともあまり思えず、問題視しても事業売却程度で済ませる気がしますが、まあこれも買収成立に対する不安要素の一つだとカナリーは考えています。因みに、年始から政府機関が閉鎖したため独禁法の審査は大幅に遅れているようです。
と、ダラダラ書きました。まあこの買収案件を外から見ているぶんには楽しいと思うので、今後もチェックしてみてはいかがでしょうか。
ブリストルマイヤーズによるセルジーン買収についてはこのページで概要やセルジーン株主に役立つ情報を書きましたのでご覧ください。
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PFF嫌いのカナリーが見つけた、まずまずな優先株
以前からカナリーは、優先株はその性質上、中途半端な立ち位置であるがため、基本的には投資先として魅力的ではなく、その集合体であるPFFに投資するのは馬鹿げているという意見を持っており、このスタンスは特に変わりません。特に長期投資家ほど普通株に投資すべきだと思っています。
一方で、矛盾しているように感じるかもしれませんが、個別の優先株では数少ないながら、そこそこ魅力的なものがあると考えています(これは前の記事でも書いたはず)。今回はそうした数少ない優先株を、PFF嫌いなカナリーが紹介したいと思います。
目次
Fortiveは工業向けの測定機器や制御機器を製造する企業です。日本で言えばオムロン辺りが近いのかもしれません(医療系の製品はないけど)。数年前にダナハーからスピンオフした企業で、S&P500の構成銘柄にもなっています。
Fortive社が発行する優先株シリーズAはそれなりに魅力的ではないかと考えています。その理由はこちら…
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普通株への転換権が付いている
この証券の最も魅力的な部分です。優先株のデメリットとしてカナリーは値上がり益が見込めない点を挙げています。しかしこの優先株には普通株への転換権が付いているため、普通株の値上がり益を受け取ることが出来ます。特に、Fortiveは売上高と利益を伸ばしているため、転換権は有利に働く可能性があります。
この証券は、最終的に2021年に普通株に強制転換されますが、その際、普通株の価格が約71ドル-91ドルであれば額面価格の1000ドルを受け取ることが出来るように転換比率が調整されており、71ドル以下、または91ドル以上になると転換比率が固定されます。一方で2021年以前に投資家の任意で転換する場合の転換価額は約91ドルです。強制転換の転換比率と比べると不利ですが、現在の株価が81ドルほどなので、そこまで遠くはありません。転換権の条件としてはまずまずといえると思います。
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満足いく配当利回りと配当支払い能力
4.8%の利回りというのは比較的高い部類に入ると思いますが、他の企業の普通株でもこれぐらいの水準の利回りを誇る普通株はあるでしょうし、また優先株の中では平均的な利回りより低いです。ただ、このfortiveという企業が成長しており、さらに普通株が成長株のように低い利回りであることを考えれば、優先株の利回り4.8%というのは、満足出来る利回りだと思います。
優先株を発行する企業(金融機関等を除く)というのは、バランスシートが良くなかったり、債務への利払いに苦しんでいることが多く、優先株の配当支払い能力に疑問符がつくことがよくあります。しかし、Fortiveは債務利息に対して十分な利益を生み出しており、インタレストカバレッジは10倍以上であることから、配当支払い能力は十分であると考えます。また、PFFを構成する金融機関発行の優先株には殆ど付いていない、配当累積条項(優先株への配当が滞ったり、満額支払えなくても、将来に業績が回復した場合、支払えなかった分を現金または普通株での配当で補うことを定める条項)が付いているので安心です。まあただ業績を見る限り、今のところ配当が滞る心配はあまりないと思います。
クールでハリーポッターの呪文にありそうな社名を持つこの企業は、電力やガスを供給する公益企業で、S&P500を構成する銘柄です。センプラエナジーの転換優先株がそれなりに良いと思う理由はFortiveの転換優先株とほぼ同じです。この優先株は普通株より高い利回りを得ながら、転換権によって普通株の値上がり益も得る可能性を持っています。公益企業でありながら、成長していますから、転換権が有利に働く可能性があります。インタレストカバレッジはここ数年間で3倍前後とFortiveよりも低いですが、公益企業であれば、3倍というのは許容範囲ではないでしょうか。
この証券は2021年に強制転換され、その際の転換比率は普通株の価格が113-136ドルであれば100ドルの額面価格と同等になるよう調整され、113ドル以下、または136ドル以上になると転換比率はそれぞれ0.8726と0.7326とで固定されます。2021年以前に投資家の意思で転換する場合の転換比率は0.7326です。
ちなみにセンプラエナジーは似たような条件でシリーズAの優先株も発行しています。こちらは利回りが6.00%とシリーズBに比べて低いですが、その分だけ転換権が有利に設定されています。
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転換権と利回り差がもたらす柔軟性
これまで紹介した2社の優先証券の共通した特徴は転換権を持ち、利回りが普通株に比べて有利な点です。この特徴は、マーケットや転換先の普通株が下落した場合に柔軟性をもたらしてくれるかもしれません。なぜか。それはヘッジで利益を得られる可能性があるからです。もし、優先株と普通株の配当利回り差が十分であれば、優先株を保持したまま普通株をショートすれば、空売りコストを考慮しても配当利回り差を受け取れる可能性があります。つまり、相場下落時でも痛手を負わずにやり過ごすことが出来るかもしれないのです。もちろん、配当利回り差で利益が得られるかどうかは、市場金利や普通株の増配によって左右されます。またこういうことは実際にやろうと思うと、考えるより数倍難しいです。ですから絶対に上手く立ち回れる保証はどこにもないわけですが、下落時に損失を回避する「選択肢」があることは一つアドバンテージではないかと思います。
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実は意味のないこの記事
ここまで読んで頂いて本当に申し訳ないのですが、実はこの記事は読者の皆様にとってあまり意味がありません(笑)。なぜかというと日本の証券会社が優先株を取り扱っていないからです。あくまでカナリーの自己満で書きました。
ただ皆様に少し考えて頂きたいのは、S&P500に入っている企業が発行する利回り4.8%から6.5%ほどの転換権付きの優先株と、大多数がストレート(非転換)の優先株で構成されている利回り5.5%ほどのPFFのどちらが有利であるかということです。もちろんFortiveやセンプラエナジーが将来どうなるかは分かりません。成長が止まったり、ビジネスが上手くいかなくなることもあるでしょう。ただ、証券の条件と2社の現状を踏まえれば、明らかに2社の転換優先株のほうが有利ではないでしょうか。そう考えると、ほぼストレートで構成されているPFFの利回り5.5%というのは優先株の中で比べれば魅力的ではなく、むしろ投資するのが馬鹿馬鹿しく思えるのはカナリーだけでしょうか。
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アメリカの投資銀行株、レバレッジは確かに低い
リーマンショック以降、デンジャラス株として恐れられているのが金融株です。金融危機における金融株の暴落は、世界一の落差を誇る滝、エンジェルホールを凌ぐほど凄まじいものがあります。
さて、そんなアメリカの金融株ですが、カナリーは、アメリカの金融機関、特に投資銀行は現在レバレッジが抑えられている状態なので、リーマンショック前に比べれば安全なのではないかと考えております。といっても、もちろんディフェンシブ銘柄と比べればリスキーですが…。あくまで、リーマンショック前と比較した場合の話です。
ということで、投資銀行たちの現在のレバレッジ比率を見ていきたいと思います。今回見ていくのは、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレーとJP モルガンです。レバレッジ比率の定義についてはいろいろ議論があると思いますし、バーゼル規制では細かく考えられていますが、今回は超単純に資産÷純資産で考えていきます。以下が現在の3行のレバレッジ比率です。
レバレッジ比率 | |
ゴールドマンサックス | |
モルガンスタンレー | |
JPモルガン |
こんな感じです。ちょっと余談ですが、日本のメガバンクのレバレッジ比率ほうが上の3行より高いのに、ROEは負けているんですよね(笑)。まあ日本の金利が低すぎることが一番の理由だと思いますが…。
ではリーマンショック前の銀行たちのレバレッジ比率を見てみましょう。今回は、上で提示した3行に加え、破綻したリーマンブラザーズや危機に陥ったメリルリンチも入れてみました。
2007 | 2006 | 2005 | |
リーマンブラザーズ | 30.7 | 26.2 | 24.4 |
ゴールドマンサックス | 26.16 | 23.42 | 25.24 |
モルガンスタンレー | 33.43 | 31.70 | 30.79 |
JPモルガン・チェース | 12.68 | 11.67 | 11.18 |
メリルリンチ | 31.94 | 21.55 | 19.13 |
現在のレバレッジ比率は10倍ほどですが、この当時は20倍から30倍となっており、今と比べると非常に高い水準であったことが分かります。レバレッジ比率30倍というと、信用取引で100万円の証拠金で3000万の 運用を行う感覚でしょうか(笑)。この当時のレバレッジ比率が高すぎるのか、今が低すぎるのかはさらに過去を遡って調べる必要があるので、また調べてみたいと思います。
因みにJPモルガンのレバレッジ比率が低いのは、恐らく投資銀行というよりは商業銀行にカテゴライズされるからだと思います。実際にこの当時のウェルズファーゴやバンク・オブ・アメリカのレバレッジ比率も10倍ほどだったと思います。
-
レバレッジ比率も完璧な分析ツールではない。
レバレッジ比率をみると確かに金融機関の健全性を確認することは出来ますが、ではそれが金融機関の分析ツールとして精密で完璧かと問われると違うと思います。例えば、モルガンスタンレーとリーマンブラザーズ。この二つの投資銀行のレバレッジ比率を比較するとモルガンスタンレーの方がレバレッジ比率は高かったのですが、破綻したのはリーマンブラザーズで、モルガンスタンレーは生き残ることが出来ました。何が言いたいかというと、各行のレバレッジ比率を比較して、どの金融機関が生き残り、どの金融機関が潰れるかを予測するのは不可能ということです。
と、偉そうに書きましたが、銀行の財務諸表というのはとにかく複雑なので、カナリーも分かっていない点が多々あります。もっと勉強していきたいと思います。
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